徹底解剖!ゴールデンカムイに登場する小樽の風景を解説するよ!

徹底解剖!ゴールデンカムイに登場する小樽の風景を解説

漫画『ゴールデンカムイ』がアツいです。

『ゴールデンカムイ』は、動物好きな元兵士の青年「杉元」としっかり者のアイヌの少女「アシㇼパ」が、アイヌ料理を通して交流を深めてゆくハートフルグルメ漫画です。
アイヌ料理の他にも、アイヌ文化や野生生物の生態なんかについても随所で描かれていて、民俗学や生物学的にも面白いです。
要は『高杉さん家のおべんとう』みたいな話だと思っていただければたぶん間違いないかなと思います。

ゴールデンカムイ杉元
▲子熊を保護する主人公・杉元佐一

ゴールデンカムイアシリパさん
▲エゾリスと戯れるヒロイン・アシㇼパさん

そのゴールデンカムイ、序盤の舞台が明治末期の小樽なんですね。
当然、作中にも当時の小樽の風景が何度も登場します。

今回は、ゴールデンカムイに登場する小樽の風景について、ちょっとだけ解説してみたいと思います。

1. 1分でわかる小樽の歴史

まずは小樽の歴史をかいつまんで。

小樽に和人が本格的に進出したのは江戸時代の中期~後期。
松前藩により「オタルナイ場所(交易場)」が開かれたのが始まりです。
江戸時代後期から函館や江差の鰊は姿を消し始め、代わりに小樽で獲れるようになりました。
鰊を追い求める人々は次第に道南から小樽に移動し、やがてオタルナイ場所が開かれるまでになったわけです。

明治13年(1880年)には全国3番目の鉄道として手宮線が開通。
その2年後には幌内(三笠市)まで線路が延び、石炭輸送の道として、北海道、そして全国の発展を支えました。

明治中期には、鰊漁が最盛期を迎えます。
鰊で巨万の富を得た漁師たちは、あちこちに鰊御殿を建てました。
連続テレビ小説『マッサン』にも出てきたので、覚えている方も多いかもしれません。
しかし、明治中期以降、漁獲量は徐々に減り始め、昭和に入ると鰊はその姿をすっかり消してしまいます。『マッサン』でも鰊が獲れなくなったってやってましたよね。

明治後期になるとたくさんの銀行が進出し、色内周辺(小樽運河の近く)は瞬く間に北海道一の銀行街となりました。
その後経済の中心が札幌に移りましたが、街の発展は昭和中期まで続きました。

1958年(昭和33年)には人口が20万人を超え、1964年(昭和39年)には過去最高の207,093人を記録しました。
しかし、1970年代に入ると人口は徐々に減り始め、今では12万人ちょっとしかいません。
日本経済新聞(2014年9月24日)によると、2030年には全国の10万人以上の市における人口減少率ワースト1になるそうです。ヤバイですね。

しかし、良い話もあります。

ここ数年、また群来(くき/鰊の産卵)が小樽の海岸で見られるようになりました。
2月頃に海岸に出ると海が真っ白になっている様子を見ることができます。

また、全国市町村の魅力度調査ランキングでは、2014年に4位、2015年には5位を獲得。一応期待はされているようです。
テレビにもたまに出ますよね。だいたい寿司食べて帰っていきますけど。

まあそんなわけで、ゴールデンカムイは、明治末期という最高に輝いていた時代の小樽が舞台なわけです。
それではコミックに登場する風景を見ていきましょう。

 

2. 建物編

旧日本郵船

まずは1巻収録の第3話よりこちら。

この建物(奥)は明治39年竣工の「旧日本郵船」。
工費は当時の金額で6万円。今の金額で考えると2億円くらいでしょうか。高いのか安いのかよくわからない。
手前の建物は明治6年創業の「梅屋商店」。現存はしていません。
この風景は19話と34話の扉絵にも使われていました。

ゴールデンカムイ小樽:旧日本郵船
▲入館料300円で見学可能

 

旧名取高三郎商店

2巻収録の16話よりこちら。

この建物は明治39年建造の「旧名取高三郎商店」。
小樽運河と並ぶ観光名所・堺町通りにあり、現在は「大正硝子館」というお土産物屋さんになってます。
レトロ感溢れるいいお店です。

ゴールデンカムイ小樽:旧名取高三郎商店

よく見るとわかりますが、コミックでは反転してますね。

ゴールデンカムイ小樽:旧名取高三郎商店

ちなみにこの柱みたいな部分は防火壁の一種で「うだつ」と呼ばれています。
明治後期の小樽の商家ではよく見られたそうです。
うだつを作るにはそれなりに費用がかかるそうで、うだつがない=お金持ちではないということで、「うだつが上がらない」の語源になったとも言われています。勉強になりますね。

 

旧百十三銀行小樽支店

4巻収録の第34話よりこちら。

明治41年建造の「旧百十三銀行小樽支店」。
こちらも堺町通りにあります。現在は「小樽浪漫館」というお土産物屋さん。先ほどの「大正硝子館」の向かいです。

ゴールデンカムイ:旧百十三銀行小樽支店

 

石ヶ守商店

2巻収録の第15話よりこちら。

画像左の「うだつ」のある商店。
明治30年頃に建造されたもので、現在は有限会社石ヶ守商店となっています。
なぜか市の歴史的建造物に指定されていないので詳細はわかりませんが、この画像の時点では空き店舗となっています。

画像右に流れる細い川は「入船川」。
現在の入船川は大部分が暗渠になっており、その姿を見ることができません。

画像奥には汽車の姿があります。
鉄道開設当初は丸田組みの橋が架けられていましたが、火災により消失。
その後(明治後期)、画像にある橋脚(煉瓦造り)が造られました。
この橋脚は現在もそのまま使われています。

17話(2巻)扉絵、第19話(3巻)でもこの風景が使われていました。

ゴールデンカムイ小樽:石ヶ守商店
▲コミックのアングル


▲左側が函館本線(現役)の橋脚、右側が旧手宮線の橋脚

▲観光ガイドマップには載っていないので

 

旧小樽倉庫

4巻収録の第30話からこちら。左手前の3つの建物。

明治27年竣工の「旧小樽倉庫」です。
中央の建物が事務所。その両脇が倉庫。結構大きな建物で、中庭があります。

現在はそれぞれ観光案内所「運河プラザ」(手前)、「喫茶小樽倶楽部」(事務所)、「小樽市総合博物館・運河館」(奥)となっています。

右手奥に見える建物は「税関支署」。
鶴見中尉が銃を構えて立っているあたりには水上警察がありました。警察署前でもお構いなしな鶴見中尉、流石です。

船が浮かんでいる部分は現在の小樽運河ですね。
この頃はまだ海でした。
小樽運河の着工は大正3年。竣工は大正12年のこと。
ちなみに、運河は通常陸地を切り開いて造られることが多く、小樽運河のような埋め立て式は珍しいそうです。

運河プラザは4巻収録の第31話にもチラッと登場してます。

ゴールデンカムイ小樽:運河プラザ

 

旧三ます河本そば屋

2巻収録第15話より。

明治42年建造の「旧三ます河本そば屋」。
これ、探すのに苦労しました。ここまで細かく描いているので、絶対に写真資料か現物があると思ったんですが、なかなか見つからない。
なんと札幌市厚別区にある北海道開拓の村にありました。
開拓の村は、明治~大正の北海道の雰囲気を味わうことができる野外博物館です。
ストリートビューでも探検できます。

 
旧三ます河本そば屋では、杉元が「にしん蕎麦」を食べていましたね。

孤独のグルメ
▲孤独のグルメな杉元

2巻収録の第12話等、他でも何度か登場しています。

 

旧青山家漁家住宅

4巻収録の第37話より。

大正8年建造の「旧青山家漁家住宅」。
青山家は小樽三大網元のひとつ。残りは白鳥家と茨木家。いずれも鰊漁で栄えた家です。
こちらの旧青山家漁家住宅も開拓の村にあります。
連続テレビ小説『マッサン』では森野熊虎の鰊御殿として登場しました。

 
青山家関連では小樽にも「旧青山別邸」が残っています。別邸なのに豪邸です。
日本家屋的なお屋敷なので道民的にはかなり珍しいものなんですが、本州の人からするとごく普通の豪邸に見えるかもしれないですね。

 

3. 風景編

花園銀座商店街

1巻収録の第3話より。

こちらは現・花園銀座商店街です。
昼は商店街、夜は飲み屋街。それが花銀。
昭和の雰囲気が残るいい感じの場所です。飲み屋も小さいながら良い店がたくさんあります。

描かれているのは明治後期~大正初期の様子だと思われます。
右側手前の目立つ看板は「一越洋装店」。
左手奥には踏切が見えます。

現在は高架になっています。

ゴールデンカムイ小樽:花園銀座商店街
▲高架が木に隠れてしまうので、道の反対側から撮影

地図でいうとここ。北を見ている感じですね。ちなみにマーカーのすぐ近くにある「ニューなると」は若鶏の半身揚げで有名。小樽市民のソウルフードです。

この景色は第19話(3巻)、第33話(4巻)でも登場していました。

 

色内大通り

3巻収録の21話より。

色内大通りです。
画像の右手前は「今井呉服店」。道を挟んで向かい側の建物(左手前)は今井呉服店の洋物部。その奥に見える時計は「工藤時計店」。

画像の景色はこの辺りから北(手宮方面)を見ている感じですね。

 
この景色は34話(4巻)にも登場。

 

色内大通り その2

3巻収録の第25話。

色内通りと中央通りの交差点。
中央に描かれているのは「篠田洋物店」。瓦葺の和風建築に洋風なデザインを取り入れた特徴的な建物です。
右手前の吹き出しに隠れ気味な洋風建築は明治31年竣工の「小樽銅鉄船具合資会社(井淵ビル)」。
煉瓦造りの2階建てでバルコニー付き。その後増築を重ね最終的に4階建ての立派なビルになりましたが、残念ながら平成4年に解体されました。
現在は、篠田洋物店→カラオケ店、井淵ビル→ガソリンスタンドになってます。

ここから手宮方面を見ている感じ。

 
第15話(2巻)や第34話(4巻)でも登場。

 

色内大通り その3

3巻収録の第19話から。

先ほどの交差点からさらに手宮より。
左手前にあるのが明治39年竣工「北海道拓殖銀行小樽支店」。
大正12年には堺町通りの近くに拓銀小樽支店の新店舗が建てられました。
旧店舗も社屋として存続していましたが、こちらは近年になって取り壊されました。
新店舗(拓銀自体がもうないので新というのもおかしいが)の方は「ホテルヴィブラントオタル」として現存しています。
※ホテルヴィブラントオタルは2017年2月15日で営業を終了しました。建物はニトリ小樽芸術村の美術館として、近く生まれ変わる予定です。

また、小さくてわかりづらいですが、奥には先ほどの篠田洋物店と井淵ビルも描かれています。

左が篠田洋物店、右が井淵ビル。この交差点を右に曲がると小樽駅に着きます。

 

有幌町の冬景色

4巻収録第33話より。

堺町メルヘン交差点の海側、有幌町の冬景色。
実はこれ明治期ではなく昭和20年代の風景なんです。
明治期にもこのような光景が見られたのかは不明。


これは雪の塊を滑らせるための樋。除雪用の機器がなかった時代の工夫ですね。

この景色の場所は定かではありませんが、おそらくこの辺の倉庫群ではないかと思います。

 
 

高台からの景色 その1

1巻収録第3話より。小樽初登場のシーンです。

場所は定かではありませんが、住吉神社の上辺りから海側を見た風景だと思います。

 

左に描かれている塔のようなものは石ヶ守商店の近くにあった「十一山の火の見櫓」。
「十一荒木」という造り酒屋にちなみ、櫓近辺の丘は「十一山」と呼ばれていたそうです。

火の見櫓の右は入船川の高架ですね。
また、そのさらに右に見える大きな建物は魁陽亭(現・海陽亭)だと思われます。
海陽亭は明治29年頃に建てられ、伊藤博文や原敬ら政府の要人をはじめ、石原慎太郎・裕次郎兄弟などたくさんの著名人が訪れた老舗料亭です。今も営業しています。
ぐるなびによると平均予算10,000円ほどだそうですよ!

 

高台からの景色 その2

続いて2巻収録16話より。

こちらは水天宮の丘から見下ろした堺町通りの様子。
ただし、コミックでは景色が反転しています。

現在の水天宮からは堺町通りを見ることができませんが、眺めはいいです。小樽市の重要眺望地点にも選ばれています。
堺町通りからも近いので観光客にもオススメです。崖みたいな階段ありますけど。あと、桜の隠れ名所でもあります。

 
 

高台からの景色 その3

最後です。4巻収録第36話より。

正確な場所はわかりませんが、富岡町、おそらくは船見坂よりやや北側からの眺望だと思われます。
【追記】現在の西陵中学校あたりからの眺望とのことです(企画展「『ゴールデンカムイ』の中の小樽」より)。惜しい!

 

左から

  1. ポントマリの巨岩:厩町(現在の手宮の一部)にあった岩。ポントマリとはアイヌ語で小さい入り江のこと。大正5年から始まった埋め立てにより破壊されました。また、厩町の町名もなくなりましたが、「厩の坂」「厩稲荷神社」「厩岸壁」等、その名は今も残っています。
  2. 高架桟橋:明治44年に建造された石炭を船に積むための桟橋。昭和19年に敵機の攻撃目標となることを懸念し上部を解体、昭和36年には残りの部分も解体されました。今は土台の一部だけが残っています。
    【訂正】高架桟橋ではなく色内桟橋とのことです。小樽市総合博物館石川様、ご指摘ありがとうございました!
    以下、石川様よりいただいたコメントの一部です。

    最後のカットは明治37年ころの写真で、手宮の当たりに見えているのは、高架桟橋ではなく、その前の「色内桟橋」です。
    ご指摘の土台は手宮公園の崖に残っている、レンガ擁壁はこの遺構です。よくホーマック前の二基のコンクリートを高架桟橋と誤解されていますが、あれは戦後の石炭積出用の器材の土台です。高架桟橋はこれよりもう少し海側、現在石油タンクがあるあたりとなります。

    ちなみに石川さんはブラタモリ等にも出演されたすごい方です。小樽の歴史について最も詳しい人だと思います。ありがとうございました!

  3. 現在のフードセンターの辺り。手前に流れる川は色内川。現在は暗渠になっています。
  4. 旧大家倉庫:明治24年竣工。現存します。小樽市指定歴史的建造物第1号です。
  5. 旧小樽倉庫:現在の運河プラザ。
  6. 小樽銅鉄船具(井淵ビル)
  7. 大黒座:芝居小屋です。後に中央座と名を改め映画館になりましたが、昭和中期にはなくなったようです。

本筋とはまったく関係ないですが、このシーンで描かれている船、なんか遠近感狂いますよね。遠くの船の方が大きい。
これには2つ理由があります。
まずひとつは水平線の位置。
元画像だけ見るとわからないですが、実際には上に描いたような位置に水平線があります。つまり、奥の船は大きく見えるけど、それほど巨大ではない。
ふたつ目は港の問題。この頃の小樽はまだ港湾整備が進んでいなかったため、大きい船は直接岸壁に来られなかったんですね。だから手前が小船でいっぱい。
遠近感おかしいように見えますけど、歴史的に正しい描写なのです。

 

まとめ

いかがでしょうか。
この時代の町並みをできる限り忠実に再現したいという作者・野田サトル先生のこだわりを強く感じますよね。
蕎麦屋とか近所のそれっぽい建物をモデルにしたって誰も気付かないのにね。週間連載なのによくやるなあ(褒め言葉)と思います。でもこういうのが漫画としての面白さにつながっていくんでしょうね。プロさすがです。

第七師団の兵舎をはじめ、いくつかの建物は小樽以外のようです。
大体は北海道開拓の村に行けばあると思います。

開拓の村のゴールデンカムイ物件については、こちらのブログで詳しく書かれていました。
クモノカケラ:「ゴールデンカムイ」舞台探訪 -札幌編-

余談ですが、作中にも登場する元新撰組の永倉新八は晩年を実際に小樽で過ごしています。東北帝国大学農科大学(現北海道大学)で剣道を教えたりもしてたらしいですね。大正4年に小樽で死去。お墓は東京です。
【訂正】お墓は東京だけでなく小樽と札幌にもあります。読者様より情報をいただきました。ありがとうございました! 調べたところ、岡山県岡山市にもあるようですね。

さてさて、グルメ漫画ながら1巻からずっと手に汗握りっぱなしのゴールデンカムイですが、今後の展開も目が話せないですね。

2015年10月19日

追記:2018年4月よりTVアニメ放送開始です!
北海道では札幌テレビや配信サービスのFODで見ることができるようです。
果たしてちゃんと放送できるのか、全部黒塗りになるんじゃないか等の心配もありますが、明治期の北海道がアニメーションでどのように描かれるのかとても楽しみです。
あと、アシㇼパさんの名前をはじめ、アイヌ語の発音がどうなるのかも気になりますね。

参考文献
小樽なつかし写真帖編集委員会(2008)『小樽なつかし写真帖 総集編 』北海道新聞小樽支社
小樽なつかし写真帖編集委員会(2010)『小樽なつかし写真帖 総集編 第2巻 』北海道新聞小樽支社
佐藤圭樹(2014)『写真で辿る小樽 明治・大正・昭和』北海道新聞社


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