イラスト制作に限定した無印iPadとiPad Proの使いやすさ比較です。
これからiPadでイラストを始めたい人、買い替えを検討している人向けの記事です。
スペックの比較ではなく、純粋に使いやすさ・描きやすさに焦点を絞っています。
比較するiPadは
無印:第6世代(2018)
Pro:第5世代 12.9インチ(2021)
ワコムのCintiq 13HDとも少し比較します。
比較
以下、各項目を細かく見ていきます。
描きやすさ
無印
ガラス面がツルツルなのでペーパーライクフィルム必須です。(フィルムなしで描ける人はほとんどいないのでは)
また、ガラス面と実際の描画面に隙間があるので、ペン先と実際の描画に若干の視差が生じます。
ただ、ワコムのCintiq 13HDと比較すると視差は少ないので、個人的にはペーパーライクフィルムを貼ればCintiq 13HDよりも無印iPadの方が描きやすいと思います。
Pro
無印と比べてツルツルがかなり抑えられているのでフィルムを貼らなくても描けます。(私は今のところ貼らずに使用しています)
ペーパーライクフィルムを貼った方がより描きやすいとは思いますが、画質を犠牲にしてまでではないかなと思います。
ガラス面と描画面の隙間もほとんどないので、無印のような視差も感じません。
Apple Pencil比較
第2世代の方が描きやすいです。
重量はApple Pencil第1世代(無印)、Apple Pencil第2世代(Pro)ともに20.7gですが、重心の問題で第1世代の方が重く感じます。
第1世代は充電用のコネクターがペンの上部についているため、重心が上に寄っています。
そのため、第1世代ではストロークが安定せず、グリップなしでの使用は難しかったです。(グリップをつけたらとても描きやすくなりました)
逆に第2世代は重心が下に寄っているため、グリップがなくても描きやすいです。第1世代よりも短くなったのも原因と思われます。
Cintiq 13HDのプロペンと使用感の差を減らすために一応専用のグリップをつけましたが、なくてもまったく問題ないです。
ただ、重さや重心でいうとプロペンの方がまだ優れていると感じました。描きやすさそのものはプロペンよりも第2世代の方が良いです。
また、第2世代にはダブルタップでツールを切り替える「Touchサーフェス」という機能がありますが、個人的には使い勝手があまり良くないと感じました。
あと、描きやすさとは関係ないですが、第1世代は充電が面倒です笑
追記:重心を確認しました。
第1世代は、先端側にグリップをつけた状態で重心が真ん中。つまりグリップがないと高重心。
第2世代は、何もつけない状態で真ん中。鉛筆などと同じですね。
ワコムのプロペンは低重心です。
第1世代に付けていたグリップ↓
第2世代はこれをつけてます↓
見やすさ
無印
画質は良いですが、イラスト制作の場合ペーパーライクフィルムが必須になるので、貼ると画質が犠牲になります。
表面は反射しやすいですが、ペーパーライクフィルムを貼ることでそこは改善されます。
画質に関しては、イラスト制作用と割り切って諦めた方が良さそうです。
カラーイラストの場合、フィルムを貼ることで色味が変化するので、パソコン等でのチェックが必要になります。
Pro
フィルムを貼らなくても描けるので、高画質を維持できます。
また、低反射設計なので、何も貼らなくても目に優しいです。
重さ
無印(469g)
持ち運び可能で扱いやすい重さ。
片手で簡単に持てるので、いろいろな体勢で描くことができます。
Pro(682g)
重い。持ち運べなくはないが、車じゃないと持ち運びたくない。
片手で持つのはちょっときつい。抱えるような感じだと大丈夫ですが、腕に跡がつきます笑
持ち運びとスペックの両立を考えるなら、M1チップ搭載の11インチ第3世代(466g)がおすすめ。
作業のしやすさ
無印
全体としては、気楽に楽しめるけど、腰を据えて行う作業には向いていないと感じました。
まず、画面の領域が狭いため、ちょっと窮屈です。
クリップスタジオの場合、ショートカットとして使えるエッジキーボードが、横向きで1~6までしか表示されません。個人的にかなり使いやすい機能なので、表示数を増やせると良かった。
また、性能が高くないため、高解像度のイラストやレイヤーをたくさん使うようなイラストには向いていません。
白黒でも600dpiになると動作が全体的に重くなりがちです。(ストロークが遅れるようなことはあまりなかった)
ページ数の多い漫画の場合はファイルを分割した方が良いです。
困った点としては、クリップスタジオのアプリがよく落ちるところ。
最初はそんなことはなかったのですが、OSのアップデートにより余裕がなくなったのか、たまに使用中に落ちるようになりました。
また、バックグラウンドで使用中に落ちることが多く、別の作業から戻ると強制的に再起動されることが高頻度でありました。
定期的に自動でバックアップされているものの、ここはちょっとストレスになりました。
私が使用していたのは第6世代(2018)ですが、最新の無印iPadでもOSのアップデートによりこのような状態になる可能性があるので注意が必要です。
Pro
タブレットとしての気軽さもあるけど、高スペック・大画面なので腰を据えた作業にも向いています。
12.9インチの場合、画面が大きいのでとても作業がしやすいです。
クリップスタジオのエッジキーボードも横向きで1~10まで使用できます。すごく便利。
性能面でも申し分なく、その辺のPCよりもずっと高速です。
無印のようにアプリが落ちることも今のところほぼありません。
重いのでお手軽さという点は無印にやや劣りますが、単体で動くので液タブよりも気軽に使えます。
Cintiq 13HDと比較して
単純に作業効率を考えた場合、Proと比較してもまだCintiq 13HD+PCの方が強いです。
iPadが不足しているポイントとして大きくふたつあります。
ひとつ目は対応している左手デバイスが少ない点。
PCの場合、TABMATEをはじめとしたさまざまな左手デバイスがありますが、iPadの場合は選択肢がかなり限られます。
私は「8bitdo Zero2」を使用していますが、TABMATEと比べると使い勝手はかなり劣ります。
TABMATEはクリップスタジオしか対応していませんが、作業がかなり高速化されます。iPad用も出してほしい。
PCでは他にもさまざまなデバイスが使用できるのでスペックで劣っていても素早い作業が可能です。
ふたつ目はファイルの取り扱いの面倒さ。
iPadはファイルの取り扱いがかなり面倒です。
別形式で別のフォルダに保存したり、圧縮したり、メールで送信したり、外部デバイスからファイルを取り込んだり…できることはできますが、PCの方がずっと楽です。
趣味のイラストならともかく、仕事で使うとなるとここはかなり重要になります。
仕事の場合は最終的にPhotoshopのファイル形式で納品することが多いので、仕上げや確認も含め、iPadだけで完結するのは難しいです。
単純な描きやすさとしてはiPadの方が上ですが、総合的な作業効率を考えるとまだまだPC+液タブには敵わないと感じました。
ここはスペックでは見えない部分なので気をつけたいですね。
どちらを選ぶべきか
とにかくお手軽に始めたい!→無印
これからデジタルイラストを始めたい人は無印がオススメです。
一番スペックの低いiPadでもPencilと合わせて5万円くらいなので、趣味の初期投資としてはかなりお手軽です。
5万円なら続かなくても割り切れるし、イラスト制作以外にも使えます。
Proと比較するとスペックは低いですが、イラスト入門デバイスとしてはとても優秀です。
とりあえずやってみたい!という人は無印から始めてみてはいかがでしょうか。
お手軽に始めたい!金ならある!→Pro
高スペックな方が強いことに変わりはないので、これから始めたい人でも予算があるならProの方が良いです。
間を取ってiPad Airという選択肢もありますが、スペックは高ければ高いほど長く使えるので、お金があるならProを買いましょう。
漫画が描きたい!→Pro
短い漫画ならともかく、長い漫画が描きたい場合は無印だとスペック不足です。
漫画制作メインの場合はProまたはAirが良いと思います。
本格的なイラストを描きたい!→Pro
複数レイヤーを扱うにはそれなりのスペックが必要です。
また、水彩のにじみ表現ができるブラシなどは無印のスペックではきつい場合があります。
絶対に神絵師になる!orすでに神絵師な人はProが良いです。
仕事で使う→Pro
イラストやデザインを仕事にしている人には言うまでもありませんが…
ただ、前述のようにタブレットだけで完結するのは難しいので、これから導入したいという場合は液タブも検討した方が良いと思います。
すでに液タブを持っていて、サブ環境としてのタブレットの場合はProが良いと思います。
下書きだけ等、限定的な使い方なら無印もありです。(私は下書き+練習用として数年間使っていました)
おわりに
iPadはApple Pencilの登場により劇的に進化したと感じます。
特に無印は費用対効果がとにかく良いです。
絵を描くという行為は紙と鉛筆があればできますが、心理的ハードルが意外と高いです。
デジタルイラストはそのハードルを何段階も下げてくれると個人的には感じています。
以前「子どもがデジタルイラストを始めたいと言い出したらまず紙と鉛筆を与えよ!」という主張を見ましたが、私としてはiPad(無印)を買ってあげて…と思いました。
「描く」「着色する」「やり直す」「公開する」がお手軽にできるのは始めるきっかけとしてもいいし、継続性にもつながります。サステナビリティ大事です。
私は大人になってからデジタル環境で絵を描き始め、今では仕事にもつながっています。(アナログ経験はほとんどありません)
アナログだったら継続できなかったしそもそも始めることもなかったと思うので、お手軽さは本当に重要です。
というわけで、これから始めたい人、お子さまがイラストを描きたいと言い出したご家庭はiPad(無印)がオススメですよ!
あと、アナログは地味にお金がかかりますよ!